知っているかい。
僕が君を気にかけていること。




休憩時間に四人で集る。
いつの間にかそれが自然になっていた。
集るというより、気付いたら集っていると言ったほうが正しいのかもしれない。
今日も休憩時間に自然と彼らは集っていた。
アルがカータにノートを借りに来る。
そこに必ず付いてくるフラバ。
そして何故か気付くといつもカータの傍にいるイジィ。
こうして四人は集っていた。

話す内容は特にない。
ノートを借りるのが目的のアルと、それの見返りを求めるカータ。
それを見ているフラバとイジィ。
けれども、気付くといつも何かしら会話が始まっていた。
会話の始まりは、ほとんどがイジィからだ。
思ったことをすぐに口に出すイジィは今日もまた、突然話題を振ってきた。

「惚れ薬が欲しい」

いつものことだが、本当に突然このようなことを口走るイジィ。
そんな姿にアルは呆れ、フラバは少々興味を抱く。
淡々と聞いていたカータだったが、思わず一言、発していた。

「…なんでそんなもの欲しいの」

アルもフラバも普通に聞いていたのに
カータだけが理由を聞いていた。
イジィはただ普通に答えを返す。
話が淡々と進められる。
その間もカータは本に目をやりながら、イジィを横目で見ていた。
途中途中で少し意地の悪いことを言いながら。

気付いてないからわざと言う。
気付いて欲しいからわざと言う。
何で僕がこんなこと言うと思う、イジィ。







その後日。
イジィはこりもしないでまだハーレムについての延長線上の話をしていた。
今度はグラビアを手にして。
フラバと一通り語り合ったイジィがカータの元へとやってくる。
カータは顔を上げず、本へと目線を向けていた。
椅子に腰掛けているカータに対し、イジィは目の前の机に軽く腰掛ける。

「なあなあ、カータ」

「何」

身を乗り出して話しかけてくるイジィ。
他人との距離が些か近い気がするが、彼の性格はそれを不快に感じさせない。
どこか許してしまいたくなる雰囲気を醸し出している。
少なくともカータはそう感じていた。

「俺さ、もうハーレムを夢見るのはやめたんだ」

「ふーん、良いんじゃない」

下がった眼鏡を押し上げつつ、イジィの方へと目線を移すと、
カータの瞳に寂しげに俯くイジィが映る。
さっきまで笑っていたかと思うと、今にも泣きそうな表情を浮かべている。
百面相。イジィにぴったりの言葉だ。

「…惚れ薬、本当に要らなくなったのか」

「え…。うん、まあ。使い道って言っても、アルしか思いつかないし」

俯いていた顔がパッと上がり、いつものようにくしゃっと顔を崩す。
冗談なのか本気なのか。楽しげに笑うイジィ。

「よく考えなくても必要なかったんだよなぁ」

「あの時はあんなに欲しがってたくせに」

「でもさ、俺好きな人いないし」

大袈裟に溜め息をつくイジィの姿が可笑しい。
そんなイジィは机の上で胡座をかきつつ頬杖を付いている。
また表情が変わった。
今度はひどく考え込んでいる様子だ。

「…だろうな」

「な…。そんなら、カータはいるのかよ。好きな人」

あまりにも真剣な声を出すイジィの姿を、カータは微笑んで見つめただけだった。
すぐまた本の続きを目で追う。

「笑ってないでちゃんと答えろって」

「さあね」

言った瞬間だった。手にしていた本が床へと投げつけられる。
いつの間にか二人きりになっていた空間。
本が床に落ちる音がやけに大きく響く。

「カータは、いつも俺のこと軽く見てる」

「軽くなんて見てないよ」

落ちた本を拾おうとしたが、今はそれどころじゃないと判断したカータは
仕方なく空いた手と手を組む。

「じゃあ何ではぐらかすような真似するんだよ」

「分からないの、イジィ」

「分からないから聞いてるんだよ」

「軽く見てるのは僕じゃない。イジィの方だ」

眼鏡越しにイジィの顔を真正面から見つめる。
身体を少々後ろに退くイジィ。
先ほどまでの勢いが失われ、今は困ったように眉を寄せている。

「お、俺はちゃんとカータのこと」

「好きな人ならいるよ」

落ちていた本を拾い上げる。
軽く本を叩いてほこりを落とす。

「え…。好きな、人…いるの、」

「ずっと見ているんだけれど、どうやら気付いてもらえないらしい」

「それって誰なのさ。俺の知ってる…」

話している途中でカータはイジィのネクタイを強く自分の方へと引き寄せた。
ネクタイを強く引かれたイジィは突然の出来事に頭が付いていかず、
カータの力の強さに驚くことしか出来ないでいる。
二人の距離はとても近くなっていた。
鼻と鼻が触れ合いそうで、瞳の奥が見えすぎるくらいの近さ。

「僕より少し背が高くて頭が悪くて、すぐ図に乗るお調子者」

「カータ…、」

「でもすごく純粋で、真っ直ぐな強さを持っている。そんな人だよ」

連続する言葉。追いかけるだけで精一杯のイジィ。
話しが終わると強く掴まれていたネクタイを離された。
けれどイジィは体勢が戻せないまま、少し前のめりになったまま動きが止まっていた。
その間にカータは次の授業の為の準備を手取り良く始める。

「それじゃ、僕は先に行くよ」

一人残されたイジィ。
数人の生徒達がカータと入れ代わるように入ってくる。
そのワイワイとした話し声がやっとイジィの頭を正常にする。
カータは一体何を伝えたかったのだろう。誰のことを言っていたのだろう。
思い出すのは漠然としたことと掴まれたネクタイ、そしてカータの瞳の色の深さ。

「俺…なんでこんなに身体に力が入らないんだろう…」

力の入らない両手を軽く握ってみる。
開いて、また握る。





きっとまだ気づかないだろう。
だけどそれで良いんだ。
そんな君だからこそ、僕は君を想う。
軽く見ているんじゃない。ただ見ているわけでもない。
誰にも悟られないように、君への想いを隠して見ているんだ。

たまには悩んだ君の顔が見たいな。
僕のことで悩む君の表情が、見てみたい。







inserted by FC2 system