僕がいて、君がいて。
それで隣同士に、又は向かい合ったりして座って話して。
冗談を言ったら怒ったり笑ったりしてくれる君。
そんな君が好きな僕は、とても安心するんだ。





「つーかお前はここがどこだか分かってんのか」

「アルの部屋」

「分かってんなら自室に戻れ」


仕事が終わった後、フラバは必ずアルの部屋へと寄って行く。
今日もまた自然とフラバはアルの部屋でクッションを片手に寝転がっていた。
アルはその隣で胡座をかきつつ、フラバを睨みつける。
ただ単にアルと離れたくないフラバの心なのか、はたまた忠実な犬のようなのか。
アルの部屋にいるフラバの心。
見当も付かなかったが、そこまで深く考える人間ではないアルは
いつも自然とフラバを部屋へに入れていた。


「今日も疲れたね」

「ったりめーだ。遊びじゃないんだから」

「うん、いつも一生懸命だもんね。アルは」

「お前もだろ」


クッションを抱えながら人懐っこい笑顔を向けてくる。
本当に幸せそうに笑うフラバ。
アルは微笑むことこそしなかったが、彼の笑顔に確実に惹かれていた。
フラバの笑顔とさり気ない言葉。
その大きさはアルが思っている以上にアルの中では大きなものとなっていた。


「ねえ、アル、」

「んだよ」


面倒くさそうにフラバの方へと視線をやる。
視線と視線がぶつかり合う。
心と心が少し向き合う。


「アルはさ、僕といて楽しいの、」

「急に何だよ」

「だって、アル何も言わないから」

「…フラバはそんな俺といて楽しいのか」


質問したのに、質問を返されたフラバは思わず目が大きくなる。
その姿が可笑しく、アルはその姿を瞳でこっそりと笑った。


「んー。楽しいって言うよりね、安心するんだ」

「安心って…。意味分かんねぇ。その理由を詳しく言え」

「理由…って言われてもなぁ」


ぶつかり合っていた視線を外し、フラバは手にしていたクッションを頭に敷き
ごろんと天井を見上げた。


「そこまで言ったなら言えよ」

「んー…」


アルも手元にあったクッションを抱え、フラバを見つめる。

ガヤガヤとする部屋の外とは全く違う空間に感じられた。
何故か心地よくて、現実なのに現実じゃないようなそんな世界。
ぼうっとアルはそんな事を考えていた。
普段だったらこんなどうでも良いことを考えないのに。
フラバといると何故か世界が違って見える。
周りの奴は信用できないし、何があるか分からない。
分かろうとしても膨大すぎて分かるわけもない。だったら考えるだけ無駄。
それなのに、どうして今はその無駄な作業をしているのだろう。

長かったのか短かったのか。気付いたらフラバの寝息が聞こえてきた。
アルの近くに寄り添うように眠っている。


「何寝てんだよ…」


フラバの頭を軽く足で蹴ってみるが、反応はない。
ただ気持ち良さそうに眠り続けている。
仕方なくアルもクッションをフラバの足元に投げつけ、横になる。
頭を膝で小突きながら。


「まだ話の続きが残ってるっつーのに」


少し不機嫌そうにしていたアルも、やがて眠りについた。




『安心するんだ』
その言葉が、アルを安心させる。
ただ隣にいたいだけ。いれるならそれで満足。話せたらもっと嬉しい。
本当に些細なことかもしれないけれど、そうやって人と人は関係を持っていく。
僕は君と仲良くなりたい。全部を知れる分けないと君は言うけれど
それでも僕は君と語り合ったり同じ時を過ごしたい。
そうすれば少しは君のこと分かるんじゃないかな。
君のカケラから僕は君をもっと知れるんじゃないかな。
僕の勝手だから、それは許して欲しい。


だってほら、起きた時に笑っていてくれる誰かがいてくれたら
それはとても安心することだと思わないか。


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